住宅ローンモデルケース~復活の50代~
公的年金の受給開始年齢が引き上げられ、定年後も仕事を続ける方が増えている現状を踏まえてか、住宅金融支援機構や各金融機関の借入可能期間が延びております。 簡潔にいうと”住宅ローン”の組める期間が延びたということです。
住宅ローンは何歳まで借りる事ができるのか
住宅ローンは一体いつまで借りていられるのでしょうか。
一般的に住宅ローンは最長35年という金融機関が多いですが、いつ借りても35年の期間で借入ができるのか、と言えばそうではありません。
住宅金融支援機構の申込要件によりますと、借入期間は
「80歳」-「申込時の年齢※1※2(1年未満切上げ)」もしくは「35年」の短い年数が上限
となっております。
要するに30歳の方であれば35年組む事ができますが、55歳の方であれば25年の借入期間になる、という事です。
借入期間は短い方が完済が早くて良いじゃないか、という方がわりと多いのですが、借入期間が短いとこんなデメリットがあります。
同じ年収で比較しても借入期間が短いと借入可能額が減る
これは1年単位でのローン返済額と収入の比率で審査をするのが要因となります。
同じ金額を35年で借入するのと25年で借入するのとでは、当然25年で借入する方が1年あたりの返済額が大きくなります。
そうなると35年で借入した場合より審査の計算上不利になりますので、借入可能額についても不利になるというわけです。
実はこの借入期間の上限(完済時の年齢)ですが、ここ数年で75歳までだったのが80歳まで範囲が広がりました。
今回のモデルケースはまさにこの恩恵を受けたと言っても過言ではないケースです。
54歳自営業、年収600万円、既存借入あり
住宅ローンモデルケース
自営業者(会社役員)という事でフラット35を利用しました。
資金計画はざっとこんな感じ。
物件価格 | 3,780万円 |
諸費用 | 300万円 |
自己資金 | 0円 |
借入額 | 4,080万円 |
頭金がなくても家は買えます
よく聞かれるのですが、頭金っていくらいりますか?というご質問です。
この頭金というのが人によって微妙に意味合いが違ってきて曖昧な言葉なのですが、いわゆる自己資金を意味する場合もありますし、手付金を意味する場合もあります。
今回のケースで表すと、自己資金は0円となりますので、そういう意味では頭金は0円です。
ただし、契約時には手付金として50万円をお支払いいただいておりますので、そういう意味では頭金は50万円になります。
※この手付金の50万円については3,780万円(物件価格)のうち50万円を先に預けておきますね、というような意味合いになりますので、住宅ローンを実行して4,080万円が手元に入った後、全ての支払いを終えますと手元に50万円が残る、という事になります。
→融資額(4,080万円)-支払額(手付金を差し引いた残代金:3,780万円-50万円+諸費用:300万円)=50万円
家を買うには多額の頭金が必要という神話みたいな格言がありますが、全くそんな事はありません。
むしろ最近の実情からするとがっちり頭金(自己資金)を入れる方は珍しいです。
ただし、一時的とはいえ、契約時には手付金が必要となりますので、まったくの一文無しでは契約できないのでご注意ください。
自己資金を入れるなら既存借入の完済に充当してください
このケースでもお客様が全く自己資金をお持ちでない、というわけではありませんでした。
ただ、既存の借入も2本ほどありましたので、自己資金を入れて借入額を減らすよりも既存借入の返済に回してもらいました。
既存借入がなくなれば借入可能額は増えますし、既存借入なんて住宅ローンの金利よりも高いに決まっているのですから、そちらを完済していただいた方が全体的な支出も減ります。
というわけで既存借入を完済し、諸費用は自己資金を出さずに住宅ローンとして借入するというスキームで審査を通しました。
借金やカードの分割払いを隠さない事
35年の借入年数なら楽勝パターンではありましたが、26年の借入年数という事もあり、予断を許さない状況でした。既存の借入で何か変な情報が出てきたらアウトの可能性もあります。
こういったケースで一番大事な事は、「何か借入があったとしても隠さない事」です。
たまーに、借入を隠して審査をかける方がいらっしゃいます。
こちらも再三「何か借入があれば絶対に申告してください」とお伝えしているにもかかわらず、です。
いいですか、銀行だろうと信金だろうと住宅金融支援機構だろうと、相手は金貸しなんです。
お金を貸す事でお金を稼いでいる金貸しのプロなんです。
カードキャッシングやショッピングのリボ払いを隠せるわけがないんです。
それを、「言わなければバレないんじゃないか」と淡い期待してを無申告で審査をかけるなんて、ハッキリ言って世の中をなめてますね。
確実にバレますし、めちゃくちゃ心象が悪くなり、通る物も通らなくなります。
よく考えてほしいんですが、「クレジットカードでキャッシングしている事を忘れていました」なんていう言い訳が通用すると思いますか?
もし本当にキャッシングしている事を忘れていたのであれば、それはそれで問題です。
そんな金銭感覚の人にお金貸したくないですよ。
というわけで、この既存借入(車のローン・キャッシング・リボ払い等)を申告せずにローン審査を申し込むのは悪手以外の何物でもありません。
今回のケースではキャッシングが2本ある事を申告していただき、こちらは完済する、という前提で審査を申込みました。
たしかにキャッシングがあるなんてなかなか言いにくいと思いますよ・・・
でも世の中には意外とキャッシングしている人が多く、こちらとしては特段驚く事はありません。
言いにくいとは思いますが、正直にお伝えください。
なお、キャッシングがある事もポジティブな情報ではありませんが、その返済が遅れていたり約定日に引き落としできていなかったりするとまぁ大変。
たかだか数十万円の借金を約束通り返済できない人に何千万円ものお金を貸す人がいますかねぇ・・・という話です。
もうひとつの心配事~年金未納~
さて、キャッシング等の既存借入については完済する前提でしたので、それほど問題視しておりませんでしたが、実はもうひとつの心配事がありました。
それは、国民年金の未納です。
この方は会社役員(代表者)ではありましたが、1年半前までは個人事業主という形での自営業者さんでした。
いわゆる法人成りして株式会社を設立し、現在に至る、という感じでした。
法人化してからは社会保険に加入したため厚生年金を納められていたそうですが、それ以前は国民年金だったため、未納分があるとの事でした。
これに関しては私から「年金の未納はありませんか?」と、確認しました。
個人事業主は給与所得者のように保険料が給料天引きになるわけではないので、年金未納のケースがわりと多いです。
なんとなくの直感が当たり、年金の未納が浮き彫りになりましたが、こちらも綺麗にしてくる、と仰いました。
この他にも税金関係で未納などの心当たりがあれば、それも納めていただいた方が良いですとお伝えしました。
※自営業者の場合は所得税・消費税等の納税証明書を提出する必要がありますので、これが未納だと当然NGです
ちなみに、この年金の未納がローン審査に影響するのかどうか、についてですが、「影響する」という確たる証拠は持ち合わせておりません。
恐らく、民間の金融機関はローン審査に年金未納は影響しないと思われます。
公的機関である年金事務所と民間企業である銀行や信金が国民のデータを共有しているとは思えないからです。
ただし、フラット35については住宅金融支援機構が審査をしております。
独立行政法人住宅金融支援機構ですから、言ってしまえば国の機関ですよ。
国の機関が審査をするのですから、国民年金を含め、納税の有無も審査項目にあるとしてもおかしくないわけです。
金融機関の担当者に聞いた話では、年収も物件も問題ない、さらに信用情報も問題なかった人が、どういうわけか機構の審査で不承認になるケースがあるそうです。
不承認になった場合、その理由は非公開です。
どうして通らなかったのかは謎のままです。
これがカードの延滞履歴があるとか勤続年数が短かったとかなら、それが理由ではないかと推測できるポイントがあるのですが、それらしき理由のない方が不承認になるケースが稀にあるというのです。
こうなってくると、実は反社会的勢力の関係者だったとか、国際指名犯だったとか、それとも年金や国民健康保険等の未納がひっかかったのか、という予想できる範囲での理由付けが生まれてくるわけです。
個人的な結論としては、年金未納は住宅金融支援機構の審査に影響すると考えております。
ローン審査の結果
さんざん心配しましたが、このお客様、無事に本承認となりました。
本当に嬉しかったですし、お客様も泣けるほど嬉しかったと仰っていました。
実は審査を申し込む段階で色々なお話を伺いました。
なぜ借金があったのか。
なぜ税金関連の未納があったのか。
どういう仕事をしてきて、どんな失敗をして、そしてどうやって今があるのか。
若い頃に親の会社が倒産し、実は家を買うのは2回目で、なんなら結婚は3回目。
事実は小説より奇なりと申しますが、まさにそんなドラマティックというには綺麗すぎる、壮絶な経歴の方でした。
ローンが承認となりました、とお伝えした時、心底喜んでいただいていたように思います。
そしてお客様の色んな経緯を聞いていた私も、その状況に感動してしまいました。
生きていれば良い事もある、というと綺麗ごとに聞こえるかもしれませんが、なんていうか、すごい勇気をもらいました(語彙力・・・)
以前の返済期間だったら無理だった
めでたし、めでたし、という結果に終わって本当に良かったのですが、このケースでも以前のように「満76歳で完済」というような返済期間だったら計算上、借入は不可でした。
今は80歳まで、という計算で返済期間を決められるので40代はもちろん50代でも新たに住宅ローンを組む事ができるのです。
借入可能期間が長くなり、まさにその恩恵を受ける事ができたケースでした。
もちろん無理に高齢までのローンを組む必要はないですが、選択肢が広がるというのは良いに決まっています。
まとめ
そんな歳になってから何千万円も借金したくない、と仰る方もいるのですが、逆に死ぬまで賃貸で過ごすおつもりですか?と。
一家の大黒柱が先に逝き、残された家族がそれまでと同じように家賃を払えると?
定職の無くなった老人がまともな家を借りられると?
実家がある人は、いざとなれば里帰りすれば良いですからね、賃貸で通すのもアリだと思うんです。
しかし、死ぬまでずっと賃貸というのも相応の資金があって成り立つ計画だと思います。
老後は高級老人ホームで余生を送るんだ、というぐらい資金があるのが理想なんですが、そもそも死ぬタイミングも分からないので幾ら用意しておけば足りるのかも分かりません。
入念に計画した上で賃貸派を通すなら何も問題ないのですが、ローンにびびって買うタイミングを逸し、家が欲しいと思ったら時すでに遅し、というのが一番悲しいですよね。
団体信用生命保険という保険がセットされるのです。
直球で表現しますが、ローンを完済する前に死んでしまったとしても、借金は残りません。
住宅ローンという借金を背負ったまま死んでも、残された家族に迷惑はかかりませんので、安心して死ねます。
このロジックが理解できずローンを組むのが怖い、なんて言う人は、それらしく聞こえる言い訳に使っているだけか、まだ自分の人生に向き合えてないのではないでしょうか。
一生に一度の買い物、と言われる事もありますが、二度も三度も買う人はいくらでもいらっしゃいます。
家を手に入れる事はゴールではありません。
家を手に入れる事でより豊かな暮らしができる、というのが大事な事です。
これをご覧の皆様にも、そんな素敵な家が見つかる事を願っております。